アナルが分からなくてパワハラを受けた話

パワハラは何も生まないし、当事者にとってはとても辛いことだと思う。パワハラと対峙する時、解決するには原因を潰すしかない。パワハラの引き金となる事象を起こさないようにするか、パワハラをしてくる相手を自分から遠ざけるかである。しかし、たいていのパワハラは簡単に解決しない。となると「自分が我慢した方が良い」となりがちである。それで自分が潰れてしまっては元も子もないが、何とかなる人も中にはいる。

僕は「ガラスのハートの持ち主」と言ってはいるが、周りから見ると精神的にはタフに写るらしい。それは恐らくキツめのパワハラを受けた経験からくるものだと思うので、ここで僕が受けたパワハラを紹介したい。

 

時は遡ること15年ほど前。僕は高校のラグビー部員だった。ちなみに学校は都道府県の大会でベスト4くらいになることが多く、まあまあの強豪だった。ポジションはフォワードのロックをやることが多かった。ロックというポジションはスクラムの時にプロップ(一列目)の選手を押す役目の選手である。

ラグビーに限った話しではないかもしれないが、練習中、フォワードはフォワード同士で過ごす時間が多くなる。これはセットプレー(スクラムラインアウト)があるためだが、このセットプレーの練習が地獄だった。

パワハラをしてくるのは1個上のM先輩だった。M先輩は「○○県最強のフォワード」を自称しており、実際に身体が縦にも横にも大きく、パワーもあったため、突進してくると止められる気がしなかった。こんな逸話もある。M先輩は都道府県選抜のセレクションを欠席(サボり)で三次選考まで進んだのである。ちなみに三次選考では、審査員の予想をはるかに下回るスタミナにより落選となった。

このM先輩は僕たち後輩に厳しく、全体練習終了後に突然空気椅子をさせたり、スクワット100回を2セットを課す等、とにかく厳しかった。的にされた同級生は殴られたり、物を奪われたりと酷い扱いを受けていた。

一方の僕は「マッサージが得意」という特技を活かし、練習後のM先輩のマッサージを強制・・・ではなく、させて頂くことにより比較的良好な関係を築くことができていた。その良好な関係が崩れたのが、僕のポジション変更である。

僕はフランカー(三列目、スクラムの外側にいる人)だったが、ロックにコンバートとなった。ロックとなり、スクラムの時に僕が押す人がプロップのM先輩だったのだ。

スクラムの練習は、スクラムの姿勢を作ることから始まる。細かい説明は省くが、スクラムはまっすぐ押すことが重要であり、まっすぐ押すためには、皆が背中を丸めずに平坦にすることが大事だからである。その平坦な背中を押す側は、自分も姿勢を作りながら、相手の背骨を尻から押すことが求められる。よって肛門に肩を入れるようにしなければならない。

M先輩は身体が大きいことから、当然尻もでかい。そのため、肩がなかなか肛門を捉えられないのである。通常、キッチリ組めば、肩は自然に肛門を捉えることができる。しかしM先輩の規格外な尻は、肛門を隠してしまうのである。

その結果、僕は肛門を見失ってオロオロし、M先輩に「俺のアナルはそこじゃねえ!」といって殴られるに至ったのである。これがパワハラの幕開けである。その後もスクラムを組む度に、M先輩に「俺のアナルはそこじゃねえ!」といって殴られた。自分的に「ここがアナルだ!」と思っても、「俺のアナルはそこじゃねえ!」といって殴られた。ちなみに、練習中「そうだ、そこが俺のアナルだ」と言われることもあったが、逆に僕がしっくりくることも無かった。もしかしたら、自分がM先輩のアナルを見失っているように、M先輩も自身のアナルを見失っていたのかもしれないが、今となっては確認する術はない。

別の日、「お前アナル分かってんのか?」と言われ、壁に向かってスクラムの姿勢をさせられ、僕の肛門にM先輩が肩を入れてきたことがある。対人のスクラムでやられても肛門が痛むのに、壁は力が逃げないから余計に痛い。しかもやるのは自称「○○県最強のフォワード」ことM先輩である。「ここがアナルだ!分かるか!」「分かります!分かります!すいませんでした!」「分かれば良いんだよ!ちゃんとやれ!」「はい、すいませんでした!」。僕はヒリヒリと痛む肛門のせいで涙目になりながら、M先輩の肛門を必ず見つけることを心に誓った。

その後は、結構良い確率でM先輩の肛門を捉えることができるようになったが、それでも、たまにM先輩に「俺のアナルはそこじゃねえ」といって殴られた。これは僕が不器用だったからかもしれないが、他の先輩の肛門は百発百中で捉えられたので、やはりM先輩の規格外の尻に原因があったのだろうと思う。

 

他にもM先輩絡みでは色々と話しはあるが、僕が受けたパワハラとして一番印象的だった話しを紹介した。世間一般で、「俺のアナルはそこじゃねえ!」といって殴られる人はそんなに多くはないだろう。M先輩を良く思うことは無いが、こんなエピソードを僕に与えたくれたことと、少し僕をタフにしてくれたことには感謝したいと思う。