新宿駅の隅っこでうんこ漏らして不貞寝した話

事件当時履いていたデニムを捨てることになったので記録として残したいと思う。
10年ほど前の今くらいの時期、僕は基準+1単位で進級した理系大学の2年生だった。その日は一限から必修の実験があり、それは、ギリギリで進級した僕のような学生に遅刻は許されない科目であった。
学校は家から2時間かかることから、9時半の一限に間に合うために、最低でも7時半には家を出なければならなかったが、僕は母親という最強の目覚ましを使用し、7時過ぎには家を出ることができた。
通学にあたっては、私鉄で新宿駅に行き乗り換えをする必要があったが、新宿に近づいたとき、"それ"は唐突に僕を襲った。"それ"とは腹痛と便意である。腹痛と便意は波となって出現した。谷の部分では何も感じず穏やかこの上無かったが、山の部分では冷や汗を流し、肛門は解放を自粛すべく全力で閉めていた。新宿に到着する頃には完全に谷はデフコン5、山はデフコン1であったが、下車した際は何故か完全に平時だった。
この時、僕はまあまあ出来の悪い頭をフル回転させた。「駅のトイレに飛び込めば、1限に遅刻する可能性がある」、「しかしもう一度山が来たら大変なことになる」、「今は谷じゃないか。このまま波は無くなるかもしれない。」。ということで出た答えは「乗るしかない、このビッグウェーブに」。そう、波を乗りこなそうと判断したのである。今思えば愚策極まりないが、まあまあ出来が悪い、ギリギリで進級するような僕にはそれが良策に思えたのである。
ということで新宿駅で下車、JR線のホームに到着すると、今までに感じたことの無いほどの山を感じた。例えるなら、格闘マンガの喧嘩自慢が主人公の殺気を浴びて死を感じるのと同じような、絶望的なほどの便意を感じたのである。
「これは一度出す必要がある」本能的にそう感じた僕は、トイレを目指すことにした。しかしJR新宿駅のトイレには行ったことがないため、使い慣れた私鉄のトイレに行くことにした。
トイレにつくと、トイレの外にも2人出てる行列ができていた。その頃には波は谷の部分にきており、僕は落ち着きを取り戻していた。朝だけあってトイレの回転は早い。列は順調に短くなっていった。その間僕の後ろでは、走ってトイレに来た人が列を見て、「クソ!」と壁をブン殴ったりしていた。僕は「分かる分かる、その気持ち。俺も「クソ!」って言いたいし、クソを出したい。だがオッサンは死ぬかもしれないけど俺は生きるぞ!」等と思っていた。
しかし自分の前の待ちが2人となったとき、絶望的な便意がまた襲ってきた。「大丈夫、今回も落ち着くはず。」と自分に言い聞かせるが、一向に治まらなかった。そこで僕は閃いた。「少し出してみよう。そうすればパンツは死ぬかもしれないけど、自分の番まで待てるかもしれない。」人は窮地に追い込まれると訳の分からない選択をするものである。僕もまた、訳の分からない選択をしてしまった。
ということで肛門の非常事態宣言を解除することにした。僕の想定では、コンビニの海苔巻き1本くらい出すつもりだった。しかし、肛門には思っていた異常の便圧がかかっており、一瞬で僕は海苔巻き3本分ほどのうんこを出してしまった。うんこはパンツから溢れ、その一部はデニムの膝まで来ていた。その暖かさと、何故か爽快だった気持ちは、今でも鮮明に思い出すことができる。
こうして僕が人間の尊厳を失った時、僕の前には誰もいなくなっていた。僕は壁に寄っかかり、膝を僅かに曲げてうんこをせき止めながら、「まー出してしまったものはしょうがない。切り替えていこう。」と考えていた。そんなことを考えているとまた便意がきた。
「もう一回出してるし、さすがに我慢できるでしょ。つーかまだまだこれからっしょ!」と盤石のメンタリティでいた僕。しかし、肛門の防御力はゼロだった。「あれ?俺我慢したっけ?」と思うくらい、ノーストレスでうんこが出た。今度は海苔巻き2本分出た。当然パンツから溢れ、膝でせき止めてたうんこは、お気に入りのナイキのスニーカーの踝の部分まで来た。ここまで来ると笑うしかない。
前の個室が空き、自分の番が来た。僕は踝のうんこを落とさないように摺り足で歩き、個室に入った。ズボンを脱ぐと、全体的にうんこが付着していた。ここで運が良かったことを紹介したい、1つ目の幸運は、水っぽくはなく、「2日目のカレー」くらいの水分量だったことである。僕はデニムに付着した、前日に食べたラーメンのメンマが入ったうんこをトイレットペーパーで拭った。2つ目の幸運は、実験だったため袋に入った作業着(ツナギ)を持っていたことである。僕は袋にパンツとデニムを積め、腸の中に残ったうんこを出し、ノーパンでツナギを着た。得もいえぬ開放感を感じた。その後は、「うんこ漏らして一限もクソもないだろ。。。」と自嘲しながら、30分前に乗った電車にノーパンツナギで乗り、僕は家へと帰った。
家に帰ると母親が驚いた顔で出迎えてくれた。驚くのは当たり前である。1時間前に見送った息子が、ツナギで帰宅したわけだから。
驚き「どうしたの?」と聞く母親に、僕はぶっきらぼうに「新宿でうんこ漏らして帰ってきた。」と伝えた。すると更に驚いた母親は「パンツとズボンは?」と聞いてきたので、「袋入れて持って帰ってきた」と答えると「自分で洗いなさい!」と怒られた。当たり前である。しかし20歳にもなって、うんこ漏らして母親に「自分で洗いなさい!」と怒られるなんて、どうかしてると僕も思う。
ということで風呂場でパンツとデニムを洗った。サイズが大きくて流れなかったうんこの一部は、排水溝にねじ込んだ。
風呂場でパンツとデニムを洗って、ついでにシャワーを浴びた僕は、煙草に火を付けた。その時は、言葉に表すのは難しいけど、決してネガティブな感情ではなかったことを覚えている。
母親は「学校はどうするの?」と聞いた。僕は「病院行くわ(病院に行った証拠があれば休みが不問になるため)。前からお腹弱かったしIBS(過敏性腸症候群)だと思うし。」と答え、不貞寝した。文字通りのクソ野郎である。
そして夕方起きた僕は消化器系の病院に行きIBSと診断され、帰りにストッパ下痢止めを購入した。その後、夜はバイクで友人のところに行き、ラーメンを食べながら事の顛末を話した。「お前マジもんのクソ野郎だな。」、友人はそう言うが僕は言い返せなかった。だって僕はマジもんのクソッタレになってしまったから。

この話しを最後まで読んでしまった酔狂な人、あなたは腹痛・便意を感じたら、すぐトイレに行ってください。決して波を乗りこなそうとしないでください。その波は決して乗りこなせません。
それでも乗りこなしたいと思った人に向け、この名言を送ります。
波は神様がくれたおもちゃ。
- クレイ・マルゾ -